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途方もなく洗い続けた焔はようやく我に返り、ふらふらと男子トイレから出てきた。
すると、廊下には自分のクラスの生徒達が世間話をしながら戻ってきた。
ゲームがどうだの、漫画がどうだの、女優がどうだのと。
けれど、今の彼にはそんなものは耳に入って来なかった。
それで焔はそのまま教室に戻り、項垂れるように席に戻ると自分の気配気づいた輝人が振り返った。
「おい、何処に行ってたんだよ…いつも一番乗りのお前がいないから心配したぞ」と言うと、焔は重い頭を持ち上げて精一杯の笑みを作ってこう返した。
「ごめんな、ちょっと気分が悪くてな」
「大丈夫か?」
「平気だ、少し休めばいつも通りになる」
だが、輝人は仮面を見透かしたのか目を細めてから言った。
「そんな顔で灯岡に会いに行くのか」
だがそんな言葉は、彼の耳に届くことはなかった。
それから、普通に授業が行われた。
教師に呼ばれて問題を解かされたり、音読をしたがあれから、あの不審な声は聞こえてこなかった。
(あれは……気のせいだったか……)
そうして、昼休みになり待ち合わせの場所に向かうため鞄に入れていた弁当を持っていった。
そして、最上階の階段を登り屋上に続く扉に着いたとき待ち合わせしている人はなかった。
「まだ来ていなかったのか」と言いながらポケットからピン止めを取りだしいつものようにピッキングをして開けようと鍵穴に刺し込んだとき違和感が生じた。
(開いている?)
ここを開けられるのは職員室と校長室にいる人間のみ。
だが何の用事もなしに開ける必要があるのか、いや答えは否だろう。
なら、ここでの目的は所謂一つしかない。
そう考えて、焔は中に入る振りをして身を隠しながらノブを静かに回し入ると見せかけて開くだけして見せた。
少しだけ開いたドアは風によってゆっくりと大きく開いた。
「誰もいない?」と小声で呟いてから、静かに体を立ち上がらせてから足音を忍ばせて、屋上へ出てみるとそこには誰もいなかった。
「誰かが開けて閉め忘れたのか?それとも……」と言いながら周りを見渡してみると昇降口から見える位置にタバコが落ちていた。
それを見て、思わず息を飲んでしまった。
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