ハロー、エモーション!

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ハロー、エモーション!

僕には感情というものがない。 人間には喜怒哀楽というものがあるらしい。嬉しいときに人は笑う。悲しい時に人は泣く。そういうものなのだと、僕は物心ついた時に絵本で知った。 生来体が弱かった僕は、同じくらいの歳の子たちが外で遊んでいる時間もベッドで過ごすことが多かった。 もちろんそんな状態だから友達なんてできるはずもない。そんな僕の独りの時間を埋めてくれたのは本だった。たいていの物事は本から知ったと言ってもいい。 そのうちの1つが「感情」だ。赤ん坊の時はどうだったか知らないが、僕には笑うことも泣くこともよくわからない。幼稚園はほとんど行くことが出来なかったので、僕がまともに同年代の子どもと喋り始めたのは小学校に入ってからだ。そこでは「感情」のままに笑ったり、泣いたりする子どもが大勢いた。僕としては「なるほどな」と思って周りの観察に興じていた。 しかし、そうしているとなぜだか気味悪がられた。子どもたちには避けられたし、教師にもなんだか腫れ物をさわるような扱いをされた。そんな状態が続くことは僕の望むところではなかった、せっかく人と関わることができるようになったのに。 それから僕はフリをした。「感情」があるフリを。周りに合わせて笑って、泣いて……泣くまではいかなくとも落ち込んで見えるような顔を作って。 そうしたら少なくとも気味悪がられないようにはなった。でも相変わらず僕は独りだった。まあ独りなら本が読めるし、他人の観察にも支障はないし、特に困ったことにはならなかったのでそのまま過ごしていた。
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