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勇者ダナートはその扉の前で、いよいよだなと息を吐いた。
扉にはご丁寧に『魔王の部屋』と書いてある。
(この先に魔王が……)
その割に、大した装飾もなく、至って普通の居室のようなクリーム色のドア。
(これもまやかしかもしれない)
ダナートは気を引き締めるように唇を噛み締めた。鋭い目をすがめて、扉に向ける。
ここに至るまでに数々の困難を乗り越えてきた。
『ハァハァ……俺はもうダメだ……。先に行ってくれ……』
『うっ、わ、わたしもここまでだわ……。ごめん、なさい、ダナート……』
魔王城に入ってから、味方は一人欠け、二人欠け、最後に残った優秀な魔法使いも頼りになる聖女も敵の手に堕ち、涙を浮かべて彼を見送った。
その姿はダナートにはとても回想することはできないほどひどいものだった。
彼は首を振り、想いを断ち切って、扉に対峙した。
「待ってろ、魔王。俺が倒してやる!」
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