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【第二章】(三)策士 壱
一
小春は、こうのやの裏手に続いているもう一軒の母屋へと向かっていた。
表店と同じく瓦葺き二階建てのその家は、もともとは別々の家と思われ、その証拠に二軒の間をつなぐように渡っている廊下はあとから増築されたかのような平板であった。
衛門のあとを辿るように廊下を渡り終えると、こうのやの中庭が見えた。
庭園のように整えられているわけではなかったが、広さもあり、独自の風呂小屋まで置いている庭である。
小春は見覚えのある風呂小屋に、伽羅との出会い方を思い返して頬を染めた。
広縁を突き当たった先から伸びている階段で二階へと上がる。その傾斜はやや高く、小春は手を突きながら用心して上がっていった。
二階へ出ると、廊下を挟んで両脇に襖戸の座敷が一直線に続いている。
こうのやへ勝手に立ち入った時と変わらぬ光景を前に、小春は衛門の後ろで、初めてを装い歩いていく。
衛門が向かう先にあるのは伽羅の部屋だった。
(お部屋で話しをするのかしら……)
伽羅は部屋を用意しろと衛門に言いつけていた。確かに、伽羅の部屋でなら話もしやすい。小春は伽羅がそう考えたのだと察し衛門のあとについていく。
伽羅の部屋は廊下を突き当たった右手の部屋だ。だが衛門が足を止めたのはその向かい、左手側の部屋だった。
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