【第二章】(二)濃紫の背 参

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 伽羅は小春の言葉に被せるように言った。そして小春へと向き直すと一言言った。 「話はそのあとだ」 「!」  有無を言わせぬ圧のある目に、小春の心の臓がぎゅっと押しつぶされた。  黙り込んだ小春を見た伽羅は、帳場へ上がるとそのまま歩いて行ってしまった。  皆が伽羅の後ろ姿を見つめている。  残された衛門と小春。  そこへ蓬生が近づいてきた。 「衛門。伽羅の言われたとおりに」 「は、はい。わかりました」  蓬生にうながされ、衛門はすぐに立ち去っていった。  ひとりとり残された小春に、蓬生は柔和な笑みで小春に告げた。 「さあ、あなたもどうぞお上がりください」 「は、はい……」  小春は言われたとおり、上がり框に腰を下ろして草履を脱ぐと、静かに帳場へと上がった。 「またお会い出来て嬉しい限りです。小春殿」 「蓬生様……」  蓬生は特に気にする様子もなく小春を迎える。そのまなざしは、張見世に居た時と同じものであった。  淑やかで優美な声音——。  小春はまともに蓬生を見ることができず俯いていると、蓬生はくすりと笑い、踵を返して去っていった。 (またこうのやに……来てしまった)  これからどうなるのだろうか。  先の見えぬまま、小春はそのときを待つことしか出来ずにいた。  
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