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「どうぞ、こちらをお使いください」
そこは畳敷きのなにも置かれていない空き部屋だった。
「えっ? あの、衛門さん。伽羅さんはどちらに? 私は伽羅さんにお話があるだけなんで長居するつもりはないんですが」
「部屋にいないから湯屋にいったのかもしれませんね」
「湯屋へですって!?」
(まさかこの状況で? 私をほおって?)
衛門は部屋の中に入ると外の空気を取り入れようと雨戸を開けた。
戸が開かれると部屋はわずかな光を取り込んだ。
「そもそも、伽羅さんは小春さんをここで預かるって言ってましたし、そう案じなくとも時期に帰ってきますよ」
(あの人の言った「預かる」って、そういう意味だったの?)
「そんな……。それでは困ります!」
小春は外の様子を眺めていた衛門の元とへ駆け寄っていくと、衛門の両肩を掴んで自分の方へ向き直し、声を張った。
「わっ。な、何ですか!?」
「失礼ながら、衛門さんはこうのやのご主人なのですよね? ならお分かりいただけるかと思いますが、私はいま、店を留守にしてきているんです! 店主が店を留守にするなど、あってはならないことです!」
「ぼ、僕は伽羅さんに言われたことをしているまでから……」
「衛門さんはこうのやのご主人なのでしょう? 衛門さんから伽羅さんへなんとか言えないのですか?」
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