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辺りを見渡してみると、通りを挟んだ向かいには大きな屋敷が広がっていた。その脇に道がある。小春はそちらへ向かうことにした。
横丁は上り坂であり、さらに進むと再び道が分かれた。
小春は再度、覚書を取り出して目を通す。
(この道、三念坂って言うんだ)
三念坂とは、転ぶと三年以内に死が訪れるという云われの坂である。足元に気をつけて真っ直ぐ進むようにと案じてくれてはいるが、何故そんな脅かすような道を案内するのかと、小春は人知れず眉をしかめた。
土地勘のない道、いつしか喧騒は消え、草履の音だけが響いている。
(まことに、この道で間違いないのかしら)
迷いを感じながら歩いていると、目の前を薄紅色の花びらがはらりと舞い落ちた。
(桜……?)
心許なさを和ませる色が映り、小春は顔を上げて辺りを見回す。どこかに桜の木があるのだ。
すると、道なりに続く塀の向こう側で、薄紅色の頭が揺れていることに気づく。小春は塀をつたい、中を覗けないかと入り口を探した。
————
そこは寺であった。
だが境内は荒れ、本堂の柱壁は朽ち果てており、屋根も一部が崩れ落ちている。
(ここ、廃寺なんだわ)
それ以上先へ進むのが躊躇われたが、その陰気な景色とは対照的な艶やかな桜が、風に揺られて優雅に花びらを散らせている。
心が華やぐ見事な桜を独り占めしていることに、小春は優越感で満たされた。
(綺麗……)
すると、麗しい香りが漂ってきた。
桜に香りはないはずだと思っていると、小春はとある光景に心の臓を大きく跳ね上げた。
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