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木の下で、男が女を抱き寄せながらその首筋を貪っている。
白絹の着物に、玉蜀黍色の一枚布を羽織代わりに合わせた、黒足袋を履く長身の男。左手には、手の甲が隠れる黒色の手覆をつけており、その手で女の細い首を支えていた。
髪は腰に届くほどに長く、色は桜よりも色濃い。
高い位置で束ねた髪には金細工の髪飾りを添えており、桜を浴びながら靡く髪が、典雅な姿で春の景色を彩っている。
逢瀬の最中か。男は、女の着物の襟を大きく開き、首から肩を辿って官能を浴びせるような口づけを施している。
目を覆いたくなるほどの悦情が映り込み、小春は思わず息を呑んだ。
(あんなにやさしく……女の人を)
すると、男が小春に気づいて女の肩越しから視線を向けた。
色香を溶かしたような水色の目。長い睫毛に縁取られた眼が、小春を真っ直ぐに捉える。
(……っ、気づかれた!)
男は小春をまっすぐ見つめたまま、舌をぬめりと出して、女の耳朶を舌先でなぞった。そして、その柔肌をかき寄せるように女の耳を舌で包み、口に含んで甘く噛みしめる。
(こっちを見てる……)
胸の奥が鷲掴まれるような欲情的な男の態度を前に、小春は身を震わせる。
みずみずしい果実を味わうかのように、男は女の肌に唇を寄せ、胸の谷間に顔を埋める。その口づけが心地よいのか、女は首を後ろに大きくしならせ、男の頭を抱き寄せていた。
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