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(あの人、私が見てるとに気づいているのに……なんていやらしい!)
途端に目が覚め、小春は逃げるようにその場を離れた。
男はそれに気づいた。
立ち去っていく珊瑚色の小袖の娘を見つめながら、今度は男が、酔いから覚めたかのように女の体を引き剥がす。
突然途切れた快楽の時に、女は男の顔を見上げて問いかけた。
「……麝香様、どうなさったのですか?」
「うん……」
今の娘、妙に気になる。
そう思いながら、なんとか視線を戻した麝香は、女の肌に舞っている赤い花びらを見てくすりと笑った。
「あ、綺麗に咲いたね」
「えっ?」
「欲しかったんだろ? 赤い花びら」
そう言いながら、麝香は、女の肌のあちこちに散る赤い痕を親指で掠めた。
「あっ……そんなふうに触れないで下さい」
「こんなに赤くなっていたら、しばらく誰にも見せられないね」そう言われ、女は慌てて着物の襟を掻き合わせる。
「じゃあね、名も知らない君——」
「もう、行ってしまわれるのですか?」
麝香は靡く髪を耳にかけながら微笑む。
「花は咲いたら、終わりだよ」
麝香は女を残し、立ち去る。
その背に女の視線を感じたが、興味はあの娘に向いていた。
見たことのない顔。頬を紅潮させる様は初々しい。
触れてもいないのに、どうやら心が惹きつけられている。
いったいどこの娘だろうか——。
————
通りへ出てきた麝香であったが、見つけた娘はもう遠のいていた。
娘の歩く道は、こうのやへと続いている。そこは香りを纏う男たちが住まう場であり、己が身を置いているまほろばであった。
(へえ、町へ行くのか)
かすかな期待に、自然と笑みがこぼれていく。
麝香は、娘の足跡を辿ることにした。
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