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「咲さんからは、要一と早苗さんが広島で出会って咲さんが出来た、と聞きましたが。本当は違うんでしょう」
観念したように早苗さんは頷いた。骨の浮き出た首筋がやけに目立つ。
「そう、咲は私と本田の子供よ。要一さんは何の関係もないわ」
では何故、父が彼女らに関わることになったのか。話は28年前に遡る。
要一と本田は出張で広島に来た。そして、本田に連れられてキャバクラへと向かう。そこで出会ったのが早苗だった。
早苗は本田と一夜を共にする。その時にできたのが咲だった。
咲ができたことに気づいた早苗は、本田と連絡を取ろうとした。だが、なぜか繋がらない。困った早苗は要一にも連絡した。そこで、本田が逮捕されたと知らされる。
「本田が逮捕されたのは俺のせいだって言うのよ、要一さん」
どういうことだ?俺は首を傾げた。
「要一さんに言いがかりをつけてきた男を、本田が殴ったんですって。打ち所が悪くてその男が亡くなって……本田は逮捕されて、俺のせいなのにって」
きっとそんなことはないのにね、と窓の外を見ながらぽつりと早苗さんは呟く。
「それで責任を感じた要一さんが、咲の父親になるって言い出したの」
もちろん早苗は断った。要一は既に結婚している身だったからだ。
「でも、断固として譲らなくて」
要一は本気で咲の父親になろうとしていた。認知も俺がする、父親が戸籍にいないなんて可哀想だろう。そう言ったのだが、早苗がそれを断った。
「奥様もいらっしゃって、お子様もこれからできるかもしれないのに、血の繋がりも何も無い子の父親になるなんてダメだと言ったの。そうしたら、せめて母子手帳には俺の名前を書いてくれ、って……」
「それで、父の名前が書いてあったんですね」
早苗さんは目を伏せて静かに頷いた。
「それからも、頻繁に来てくれるようになってね」
「でも、俺が生まれてからは行かなくなった」
「それは、私が断ったの。もう来ないでって。自分の子供を大事にしてほしいって」
やはりそうだったのか、と俺は唇を噛み締めた。
父は仕事一筋で、気が弱いのに責任感は人一倍で、よくストレスで胃を壊していた。
全ての話を聞いた後、俺はゆっくりと口を開いた。
「早苗さん、一つ提案があるんですけれど……」
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