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両親が事故に遭った。信号無視のトラックに突っ込まれたらしい。二人とも即死だった。
兄弟姉妹もいない俺は一人残された。
悲しみや寂しさも今はまだ感じなかった。
喪主として、通夜や葬式の準備やらに追われていたから、悲しむ暇がなかったとも言う。
なんとか通夜を終わらせ、あとは葬式を終えるだけ、という時に、その女はやって来た。
そもそも身内だけで葬儀を行う予定だった。だから、その女は会場に入ってきただけでかなり目立っていた。なおかつ、遠目からでも分かるほどに、歩き方で怒りを露わにしている。
地味な喪服に身を包んでいるのに、どこか華麗で美しい。何より顔が整っていた。
女はカツカツとヒールを鳴らして会場に入り、肩の上までの短い髪を揺らしながら辺りを見回す。
そして俺と目が合った瞬間に、物凄い勢いでこちらに向かって歩いてきた。
ぴたりと俺の前で足を止める。美しくも気の強そうな女は口を開いた。
「あなたが立花 修司?」
不躾に聞かれて面食らう。
「そうですが、どちら様ですか」
ふん、と女は鼻を鳴らして俺を睨む。俺が何をしたって言うんだ。
「私はあなたの姉、三山 咲よ」
「……は?」
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