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一人の農民が叫んだ。
「んだ! でも! 武器がねぇだ! 刀も槍も弓も昔に太閤様の刀狩りで持ってかれてまっただ!」
そう、かつてのこの国の支配者である太閤様によって「刀狩り」と言う政策が成され、武士以外は武器の所有を許されなくなってしまったのだ。だからこの国では農民、いや平民は全て平等に武器を持たない。太閤様が将軍様に支配者の地位を奪われた後も、将軍様は「これは都合がいい」として武器を平民から奪ったままにしていたのである。
しかし、僧侶はそれを聞いて大笑いを上げた。
「何を言うておる! お主達は武器を持っておるではないか! 鍬や鋤や鎌で十分ではないか! お主達は常日頃から農作業で体を鍛えておるではないか! 館の武士は京の貴族がすなるような風流事に夢中な兵六玉! 刀の振り方も! 弓の弦すらも硬くて引けぬ! 鉄砲も当たりはせぬわ! 武士とは名ばかりの素人共よ! お主達なら! 勝てる! 怒りをぶつけよ!」
館の武士達は弱い。僧侶の言うそれは最高の鼓舞だった。この僧侶は常日頃から領主の屋敷へと入り読経を聞かせているために、屋敷の武士達の劣化ぶりはよく知っていた。
農民達がそんな僧侶を心の底から信頼しているからこそ出来る鼓舞である。
「よし! 連判状だ! オラが代表をやる! 領主は八つ裂きにして畑の肥やしにしてやらねぇと、死んだ妻にすまん!」
「いや、オイラだ! 領主に娘を傷物にされた怒りは収まりがつかねぇ! 代表はオラがやる!」
「オラは娘と嫁を餓死させちまった! オラにはもう何も残ってねえ! 怒りしかねぇ! 領主にも同じ苦しみを味あわせてやる! だからオラがやる!」
「オラはおっ母さんを山に捨てちまった! 口減らしが必要になるほどの年貢を要求する領主に死を! オラが一揆の代表やるだ! あいつの頭に鍬叩き込んでやる!」
皆、怒りの思いの丈を叫ぶ。僧侶が柏手を打ちながら割り込み、一旦皆を止める。
「またぬか。こういった時は唐傘連判状と相場が決まっておる。丸く円環の形に名前を書くことで代表者名を曖昧にしてだな……」
しかし、農民達は首を横に振った。
「何言ってるんだ! オラ達はこの村の未来のために一揆起こすんだ! この村は領主なき後は若いやつに任せる! オラ達の未来より若いヤツの未来の方が大事だ! 代表者を曖昧にする必要なんかねぇ! みんなが代表だ!」
代表者を曖昧にするための唐傘連判状だが、今回の一揆で使う唐傘連判状は「全員が代表」と言う意味で名前が書かれるのであった。
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