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数日後、御神木は破城槌へと作り変えられ、大量の大八車に乗せられた。それを押し運ぶ村人達の傍らには土と血反吐が染み付いた農具が握られている。行き先は領主の屋敷唯一つ。
領主不在で空振りを避けるために、僧侶は有りもしない法事をでっち上げて、屋敷に足止めをするのであった。
領主は僧侶の読経に耳を傾ける。読経を聞くと言う行事は京の貴族にとっては一流の娯楽にして愉悦。領主の心は夢心地であった。だが、読経の意味は全くと言っていい程分かっていない。ただ「貴族が聞いていた」という歴史的事実に従って聞いているだけである。
僧侶の読経が最高潮に入った瞬間、農民達は破城槌を領主の館の門に叩きつけた。空を裂き地を割るような轟音が屋敷中に響き渡る。
「な、何事か!」と、領主が叫ぶと同時に僧侶の読経を止める。僧侶は「きおったか」と、考えながらニヤリと口角を上げた。
破城槌は何度も何度も門に叩きつけられる。やがて、閂止めが真っ二つに割れ、門も弾け飛ぶように破られてしまった。農民達…… いや、怒りに狂う野獣達が屋敷の中へと雪崩込んでくる。
村長が鍬を天に高く掲げ、皆に向かって叫ぶ。
「よいか! この屋敷は我らの血と汗と涙を啜って作られたもの! 領主に我らの怒りを伝えるのだ! 殲滅せよ!」
館を警備する侍たちが太刀を抜き、怒れる農民達に斬りかかる。彼らは腰で刀を振らずに手の力のみで振る典型的な素人剣術。農民の振るう鍬すらも受け止められずに弾き飛ばされてしまう。侍にとって刀は寄る辺、寄る辺を失った侍はそのまま鍬を頭に叩きつけられ絶命してしまう。畑の中に埋まっていた頭大の石に比べれば柔らかいものではないか! 人とはこんなに簡単に命を奪えるものか! 侍と言うから益荒男かと思えば、蓋を開けて見れば僧侶の言う通り本当に兵六玉! 一揆に出た農民達の士気が益々上がり、来る侍来る侍を全てを薙ぎ払って行く。侍たちは鍬や鋤や鎌の露と消えていく。領主の館の中庭は死屍累々と侍の死体が山を作るようになっていた。
本来、一揆とは攻め入る先の人間に危害を加えてはならないとされている。この農民達は七公三民の政策によって幾人も餓死者を中心とした死人を出していた。彼らのことを考えるとこれぐらいでは済まされない。怒りは収まらない。その怒りの矛先は贅の限りを尽くしていた領主一家へと向けられる。
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