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冴子は再び台所へと小走りに去ると、ライスを盛った大皿を両手に持って現われた。
「美紀、手伝って」
姉妹は、カレーのルーやサラダ、コロッケ、枝豆、瓶ビールなどを次々運んで来る。アッという間に、食卓一杯に料理が並べられた。
オレは自分に何の断りもなく勝手に進行する展開に、異議を唱えるように口を開いた。
「ちょと、どういうことですか、お義姉さん」
冴子は、ごめん、と言うように胸の前で両手を合わせた。
「私たちのせいで、みんなに迷惑をかけちゃったでしょ。せめてものお詫びにと思って、美紀と考えてね、謝罪をかねてカレーパーティを、と思ったわけ」
「ちょと、まて下さい」
そんな勝手なことをされては困る。まだ、美紀との……いや、美紀をかたる女との話し合いが済んでいない。なんの結論も出ていないのだ。それなのに他人に闖入されたのでは、真相がうやむやになってしまうじゃないか。
それだけじゃない。釜本と山根が女を美紀だと誤解したまま店に戻れば、それが既成事実となって、この女が本当の美紀になってしまうじゃないか。
オレ一人が美紀じゃないとわめいても、狂った外国人の戯言と一蹴されてしまう。
そうしたらどうなる? え?
女はレストランオーナーとして陣頭指揮を執り始めるだろう。オレの作った会社だって乗っ取られてしまうじゃないか。
先ほどは、昔語りの甘い調べに乗せられて危うく真実から目を逸らすところだった。だが、もう騙されないぞ。やはり義姉と女はグルなのだ。
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