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だが、巡査程度の付き合いなら見分けがつかなくても無理はないかもしれない。なんたって、背格好からショートヘアの髪型、顔の輪郭にいたるまで美紀と瓜二つだし、オレでも最初は見間違えたほどだ。
おまけに、その人間の特徴がもっとも現われるはずの瞳が、赤紫に隆起して変形しているのだ。たまに会って世間話をする程度の付き合いでは、とても区別できるものではあるまい。
しかし、亭主であるオレの目はごまかせない。
声の高さや響き、話す際のテンポや言葉遣い、それに小鼻のふくらみ具合や法令線の溝の深さ、口角の上がり具合など、いずれも妻とは明らかに異なっている。
「この子は正真正銘、美紀です。姉の私が言うんですから間違いありませんよ。私と美紀の付き合いはバハルよりずっと長いんですから」
義姉は巡査に向かって必死に力説した。
「お義姉さん。何てそんな嘘をつくですか」
「嘘を言ってるのはあなたでしょう」
「こいつは美紀ちゃない」
「そうね」
冴子は素直に認めた。
「私が知っている美紀とは似ても似つかない酷い顔をしている。――でも、こんな顔にしたのは誰? あなたじゃない! あなたが殴って、美紀を別人のようにしたんでしょう!」
目尻を険しく吊り上げて義姉は吼えた。
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