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「バハルさんが素直に自分の否を認めて謝るなら許してあげようと思ったけど、否を認めないどころか、この女は美紀じゃないなんて、よくもそんな言い逃れができるわね。自分の犯した罪を目を見開いて直視しなさい! それに耐えられないからって、妄想に逃げ込まないで!」
あまりの早口に半分くらいしか聞き取れなかったが、言わんとすることはだいたい分かった。ようするに、十五年前と同じだ。
「妄想?」
巡査が訊いた。
「ええ、この人はいつもそうなんです。妄想癖があるんです」
冴子がいきり立った声で言った。
「お姉さん、やめて!」
美紀が……いや、美紀をかたる女が悲痛な声を発した。
巡査が美紀を見て、真剣な顔で言う。
「旦那さんの様子を拝見していると、とてもご家族だけで解決できるとは思えません。どうでしょう、今晩だけでも、旦那さんの身柄を警察の方でお預かりするというのは」
何を馬鹿なことを言ってるんだ。拘束すべきはその女だろう!
「いえ、大丈夫です」
顔の腫れ上がった女は、毅然とした態度で告げた。
「どうぞ、お引取りください。これは私たち家族の問題ですから」
「……はあ」
巡査は不満そうに息を吐くと、思索にふける仕草で唇を突き出し、小さく二、三度頷いた。
「分かりました。――私は引き上げますが、何かあったら、すぐに連絡してください。いいですね」
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