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「おまわりさん。美紀はぜたい、何かの事件がまきこまれたです。おととい晩、私、夕食たべましたのあと、会社でトラブルあったの電話あっただから、オフィス戻った。そして四時間あとにかえてきたら、もう美紀いないだった。それから二日間、なんの連絡がないです。何かの事件がまきこられたんです。はやく、さがしてください。そうしない、大変なことになる!」  オレは必死に巡査に訴えた。 「でもね、バハルさん」  山下巡査は、瀟洒な最新型マンションのリビングルームを見渡しながら、落ち着いた声で言った。 「室内をくまなく調べましたが、争ったような形跡はないんですよ。それに、美紀さんの車がなくなっている。これは、美紀さんが自分の意思で車を運転してどこかへ行かれたと考えるのが、一番合理的なんですね」  馬鹿か、お前は! オレは思わず叫び出しそうになった。美紀が自ら失踪する理由なんかどこにもないんだ。そのことは夫であるオレが一番良く分ってる。  また、争った形跡がないというが、仮に暴漢が押し入ったと仮定した場合、そいつが手ぶらでやってくるか? 当然、ナイフか拳銃を所持しているはずだ。そんなもので脅されたら、小柄な美紀はひとたまりもない。争うどころか、相手に言われるままに車に乗せられ、連れ去られるのが関の山だ。そういう事件は日本中で何件も起こってるじゃないか。警官であるお前が、なぜそんなことも分らないんだ。
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