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「とにかく、もう一日だけ様子を見てみましょう。案外ひょっこり帰ってくるかもしれませんよ」
オレは、人の心の痛みや苦悩をまったく解さない山下巡査に無性に腹が立った。
「もう、いいです! あなたみたい人に頼んだの私が馬鹿でした。帰ってください! 私、県警にそうだんしますから。県警のもっとゆうしゅうの人にお願いしますから」
オレは怒りに任せ、吐き捨てるように言った。
「そうですか……」
巡査はほほ笑んで言うと、隣の椅子に置いた警帽を手にして立ち上がった。だが、目の奥は笑っていない。次の瞬間、蔑むようにオレをキッと見据えてきた。無能な巡査にも、プライドだけはあるようだ。
「ま、ご自由にどうぞ」
そう言うと、玄関へと歩を進めた。
その時、呼び鈴がなった。巡査は立ち止まり、オレの方を振り返った。
「ほら、待ち人帰る、かも」
ドアを開けると、冴子が立っていた。
「お義姉さん」
心配して来てくれたのだろう。義姉には美紀が行方不明になった当日から何度も電話を入れて相談していた。
美紀より三歳年長で今年40歳になる冴子は、いまだ独身で、電車で30分ほどの距離に住んでおり、オレたちがここへ越してきた三年前から頻繁に行き来するようになった。
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