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 そんなことがあるだろうか。おとといの晩、電話した時、誰よりも心配していたのはお義姉さんだったじゃないか。昨日も何度も不安そうに「まだ戻らないの?」と連絡をくれ、早く警察に捜索願いを出した方がいいとアドバイスをくれたのも彼女だった。それが二日間家にいただって? 冗談じゃない。どういうことなんだ、一体。 「美紀、いらっしゃい」  義姉は低い声で言うと、後方に向かって手招きした。  おずおずとうつむき加減に現われた小柄な女性を見て、オレはぶっ倒れそうなくらい驚愕した。美紀だった。ツバのある帽子を目深にかぶり、トンボを連想させる丸いサングラスで顔を覆っていたが、服装は失踪した当日とまったく同じ。十五年も連れ添った妻を見間違うはずはなかった。 「美紀……」  信じられない思いで、二の句が継げなかった。  美紀は、オレに詫びの一つも言うことなく、無言でズカズカと室内に上がり込んだ。  山下巡査が警帽をかぶりながら近づいてきた。 「待ち人、帰る。――よかったですな、何事もなくて」  笑顔で優しく語りかけたが、その裏にある侮蔑と嘲笑をオレは敏感に感じ取った。  ――人騒がせな野郎だ。だから言っただろうが、事件性なんてないって。  巡査の目はそう言っていた。  巡査は、笑顔から一転、厳しい顔付きになると、美紀を見つめ叱責するように言った。
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