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「駄目ですよ、美紀さん。ご主人に連絡くらいしないと。心配するじゃないですか」
美紀はその言葉に不服を表明するように口を尖らせ、
「だって……バハルに暴力を振るわれたんです。おとといの晩、酔って私に殴りかかってきたので、仕方なく姉のところへ避難したんです」
え? オレは呆気にとられて、妻の顔をまじまじと見た。
「オレが暴力をふるただて? なぜそんなデタラメのこと言うか」
すると妻はサングラスを顔から外した。両目の下がアザになって赤紫色に腫れ上がった痛々しい顔が現われた。
うわっ、と声を上げて巡査は目を背けた。それくらい顔が変形していたのである。
「バハルさん、何てことをしたんですか」
山下は鋭い目付きでオレを射るように見た。
「ちがう、ちがう。わたし、してない」
オレは必死にかぶりを振った。
「奥さん」
巡査は妻に語りかけた。
「本当に旦那さんに殴られたんですか」
その声は、完全に取り調べ口調になっている。
美紀は、小さくこくりとうなずいた。
「ちがう。うそだ。――美紀、なぜそんなうそつくか」
巡査はオレと美紀を交互に見て、それから美紀に語りかけた。
「もし、告発なさりたいなら、この場で旦那さんの身柄を拘束することもできますが」
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