JR鶴見線国道駅裏の大秘密エイ白骨死体

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JR鶴見線国道駅裏の大秘密エイ白骨死体

鶴見の埋め立て地にどす黒い泡に巨大な白骨死体が転がっていた。異臭を放ち瘴気が漂っている。大きさは小型飛行機ほど。規制線を乗り越えると建物の残骸と巨大なエイとおぼしき骸骨がある。まるでSRI系海外ドラマのロケだ。 戦後最大の産地偽装と言われた鶴見カンフー沖縄商会の惨殺現場だ。昭和47年、返還されたばかりの沖縄から鶴見区に国籍不明のアジア人が大挙した。のちのカンフー商会である。彼らは巨大な冷凍庫を建てて遠洋漁業の裏方を務めた。陸揚げされる魚介類は出処不明だが新鮮で美味しいと評判になった。カンフー商会は南西印度洋産の加工食品と言い張った。工程を経ている食材の原産地は明記不要だった。カンフー商会は高度成長期の残照に乗ってオイルショックまでの束の間を謳歌した。不況でカンフー商会は事業停止。冷蔵庫の廃墟だけが残った。神奈川県文部省は荒廃の一途を辿る施設を危険視した。跡地に小中学校を整備する計画が持ち上がったのだ。推進役は当時の沖縄開発庁長官竜胆正雄だ。しかし猛反対にあい建設計画は自然消滅する。戦後の闇だけが令和に保存された。令和二年、鶴見区に再開発計画がもちあがりカンフー商会跡地の問題が議論された。県議会は満場一致で取り壊しを可決。戦争遺産に税金が投入されることになった。その強制代執行当日に事件は起きた。重機で倉庫を壊そうとしたところエイの巨大白骨死体が出たのだ。「ゲンちゃん!」死体を弔う少女がいた。静岡県茶摘み協会が推薦するVチューバ―『茶娘探偵ナマムギ』だ。彼女がゲンちゃんと慕うエイの正体とは何か。ゲンちゃん殺しの真犯人は誰か。ナマムギはカンフー商会跡地に向かったのだが…。 ナマムギがゲンちゃんのネタを配信したのには理由がある。高度成長期がオイルショックで一転、暗い世相になった。将来不安がオカルトや超能力などおどろおどろしいテーマを嗜好した。その一連で未確認生命体――今でいうUMAブームが起きた。鶴見沖でゲンちゃんという巨大エイが目撃され始めたのもその頃だ。バブル経済の陽気に忘れ去られたがコロナ禍で息を吹き返した。長引く緊急事態宣言が様々な在宅レジャーを開発させた。その一つに室内魚類学がある。釣りや水族館に行けない代わりにリモート見学しようとう試みだ。宅飲みは増えたがペットボトルの需要は減った。蛇口をひねれば水が出る。そして沸かす手間のかかるお茶はますます敬遠されるスパイラルが生じた。消費の落ち込みはナマムギの属する協会にも影響した。リストラ候補に挙げられなりふり構わぬ行動に出た。訴求するネタ出しに苦しんでいるとフォロワーから提案があった。おーいお茶というのは既にある。ならば差別化として「エイヤー! ア茶ー」というのはどうか。歌心あるフォロワーがボカロ曲を寄贈し振り付けをしてくれた。掛け声の元ネタを調べるとある映画俳優がヒットした。が、フォロワーは面白がってエイのモンスターをデザインしてくれた。そのネタつながりでゲンちゃんが出てきた。 JETROの史料によれば高度成長期に、出どころの怪しい水産物が、日本中、アメリカ中の人々に売られていた。琉球列島の埋め立てを検討していた政府は、カンフー商会に産地の確認を依頼した。カンフー商会は、水揚げされた魚介類は産地不明だが、新鮮でおいしいと評判だったという。それを証明するには、自分たちが釣った魚でなければならないという。しかし、カンフー商会は1970年代初頭、仕入れルートの解明を拒否した。政府は、「これは全部詐欺だ」と思い始めた。しかし、カンフー・トレーディング・カンパニーは、1970年代の終わりまでそれを頑と黙殺していた。1980年代に入ると、警察がこの事件を調査するようになった。この事件は、大量の冷凍された人間の遺体が発見されたことで解決した。遺体は骨の髄まで凍りついた状態であった。 だが暴対法のない時代。複雑怪奇な力学が働いて事件は不起訴処分になった。 目撃者の話によれば遺体はまだ生きていて、冷凍庫に入れられていたという噂があった。この話は資料も乏しく確証も少なく、鮫島事件に準ずる扱いを受けていた。
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