量子薬膳学

1/3
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/6ページ

量子薬膳学

「じゃあね」と店を出て三秒後に後姿が横になった。 「えっ?」 ナマムギが飛び出すと香港マフィアが襲って来た。服装やバッチが添付画像と合致する。黒装束のガイジン風忍者もいる。ナマムギは生足で香港忍者を蹴り倒す。 「とあーあっ!」 相手は派手に倒れた。開脚して身をひねりマフィアの脚を払う。 スカートが派手にめくれ釘付けになった。その隙をついて手首をひねる。地面にナイフが転がる。女とドルオタ相手に猛者二人で十分だと見くびったらしく襲撃は失敗に終わった。 「だいじょうぶ?」 ナマムギが小説家を抱き起す。白目をむいて痙攣しているだけだった。 「今のうちに逃げて。早く!」 喝を入れると彼は立ち上がった。 この時点で白目が黒く戻る。怯える瞳に異形が映っていたが彼は立ち去った。 「この白い顔!」 夜陰に紛れて白い犬歯を持つ老犬が出現した。ハチャメチャな日本語で叫ぶ。 「ヘーイ!近くば寄ってアテンションプリーズ、この黒い犬の眼!」 赤いLEDが点滅している。ナマムギはハッと息を吞む」 「イエース。減らず口はシャラップです。全部ドラレコしてまーす」 マフィアがスマホを犬に向けている。 白い猫背に黒いスーツを着て、足に巻いた包帯を外していたのだ。青あざがある。 「動画、編集してお前に蹴られた言います。終了でーす」 ロボット犬に見張られては迂闊に動けない。ナマムギは両手を挙げた。 「チャンネルにDM(ダイレクトメッセージ)をくれればよかったのに」 ナマムギが諫めるとマフィアは言った。「こうでもしないとお前警察行く」 忍者の後ろで小説家がペコペコしている。 「お前、添付、見たでしょう? ゲンちゃんの知り合いなら解るね?」 マフィアは相棒を指さした。 「この黒い服。」 香港忍者で、彼は黒の服を着ている。 対するマフィアは上着を脱いでワイシャツだけになった。 「ヘイ、この白い着物は何で着ているんですか?」 ナマムギは添付画像を思い出した。 「天地自然之図? 確かに在ったけど、何の意味?」 「五志だ。お前、お茶娘の癖に量子風水学も知らないか」 マフィアは呆れたように言う。あっ、とナマムギは言った。 「バタフライピーティー、サンルージュ、黄茶、黒茶…」 それぞれ陰陽五行で思い、怒り、喜び、恐れを象徴している。量子風水学は最新の境界科学で薬膳の効能と脳幹の物理的な相互作用を研究している。協会によれば量子脳医学において脳幹のマイクロチューブリンと呼ばれる部位が人間の意思決定に関わっているらしく、視覚した対象の波動関数を収縮させている節があるという。つまり「強い人間原理」を及ぼす、スピリチュアルに解釈すると幸運を招く、現実的に解釈すると本人の振る舞いをプラスに導く。 お茶のほどよいブレンドが日常生活に資するというキャッチコピーで商品の実用化に励んでいる。ただ、採算性がまだまだ未熟だ。 それを難しくしている成分がある。 「あと、白茶」 マフィアが付け足した。 99.89%以上の遮光率という漆黒の環境でしか育たない貴重な品種だ。その白い茶葉は旨味の主成分であるテアニンや、高級茶にしかないアスパラギン、アスパラギン酸、栄養ドリンクでおなじみのアルギニンまで含まれている。五行の成分が揃って量子薬膳学が効果を発揮する。ただ前述のとおり栽培に手間がかかりすぎる。 「協会に無理を言えば在庫が手に入らなくもないわ」
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!