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つい一か月前まで、俺は王太子という地位にいた。
「おい、レオ。とっとと終わらせろよ」
「はいはい」
しかし現在、俺は辺境の村にいて、自分の城館の屋根に登り、あまつさえ釘を打っている。雨漏りが酷いのだ。それの修理を自らしているのである。
ああ、今の自分は王太子じゃなく、辺境の村のちょっと金を持っている村人でしかない。
「はい、は一回だ。早くしねえと夜には雨だぞ」
「は~い」
俺は素直に大工のシモンの言葉に返事をしつつ、金槌をがんがんと打ち付ける。
「くそっ、あの野郎。追放するはこんなボロ屋をくれるは、どこまで俺が嫌いなんだよ」
がんがん釘を打ちつつ、文句は俺を廃嫡に追い込んでくれた弟のシャルルに向った。
大工には文句を言えない。なぜならばそいつは、ただいま城館の玄関ドアを修理中なのだ。
ボロすぎて人手が足りない。なんて悲しい現実。
「はあ」
つい一か月前まで何不自由なく生きていた俺には、それはもうカルチャーショックの連続だ。
でも、気づかない間に宰相と組み、謀反を起こされたことに勝るショックはなく、淡々と釘を打ててしまう。
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