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2:「恋愛ごっこ」過去Ⅰ
「さとちゃんのどこが駄目なの? さとちゃん泣いてたよ」
夜の菅原神社で、俺はあこの尋問を受けていた。途中まで同じ方向に帰る俺とあこは、塾帰りに一緒になることが多い。今日はあこの方から「話がある」と言ってきて、帰りに神社で捕まった。
塾から二人の家への道のちょうど分かれる場所にあったこの小さな神社は、塾帰りにちょっと話をするにはちょうどよかった。入ってすぐのところに自転車を停めて、境内に続く数段の石段のところに並んでちょこんと座る。
境内はクヌギ林に囲まれ、周りとは隔離された空間だが、鳥居越しに通りまで見渡すことができ、少し薄暗いが中学生でもそんなに危険を感じるようなことはなかった。
あこに呼ばれた時から、心あたりはあった。
たぶんこの前の日曜の山川聡子のことだろう。どうして女子というのは、こうも仲間意識が強いのだろう? そのくせ集団同士ですぐ揉めたり、仲間外れなんかが起こる。
まあ、こいつの場合は少し例外で、ただのおせっかいだろな……目の前のあこを見て思った。
きれいに切りそろえられたショートカットに、ジーンズ姿。よく言えばボーイッシュという表現ができなくもないが、あこの場合は男勝りという言葉が合っている。
小五の途中で転校してきたあこは、その姉御肌のからっとした性格からか同性の女子からは好かれていたが、男子特有のからかいなどに対しても動じず、むしろやり返すこともあったので、大部分の男子からはうっとおしがられていた。
小学校の時に一度、そんなからかいの対象が、あこの二つ下の妹に向くことがあった。俺自身は別にケンカが好きなわけではないし、どちらかと言えば正直あこのことをよく思っていなかった口だ。
それでも関係ない妹がからかいの対象になるのはさすがにやりすぎだろと他の男子を止めに入り、ケンカになった。後にも先にも殴り合いのケンカになったのはあの時が初めてだ。その後、からかわれて泣きじゃくるあこの妹を家まで送っていったのがきっかけで、俺はあこと仲良くなっていった。
仲良くなってみると、何でも男子と同じノリで話せるので、俺にとっては、数少ない女友だちになった。中学校になると男子も少しだけ大人になって、明るく活発なあこは、逆に男子からも人気が出てきた。
小学校の時を知っている俺からすると、他の男子の掌返しにはあきれたが、あこ自身はそんなこと気にせず、今は誰とでも仲良くしている。
「別にあこに関係ないだろ?」
俺が全面的に悪いというような、あこの追及に少しふてくされる。いや、悪いのは自分だってことはわかっているんだけど。
「関係ないことはないよ。さとちゃんに相談受けたんだもん」
これだから女子は嫌になる。簡単に友だちに言うなよ……よりによって、あこだし。
「さとちゃんすごくいい子なのに……渉になんてもったいないぐらいだよ」
こっちの都合なんて関係なしで、どんどんとあこは持論を展開し始めた。
「だいたい、振り方が悪い! 大切なことはきちんと会って話さないと」
「……それは俺も悪かったと思ってるよ」
そこに関してはぐうの音もでない。自分でもしまったなと思っているのだから。でも、その時はどうしていいのかわからなかった。何しろ告られるのなんて初めてだったので、すっかり舞い上がってしまった。
中三になっても男子で固まってわいわいしているだけの俺は、ここまで色恋沙汰に縁がなかった。クラスの中にはカップルもいくつかできていたし、恋愛こそが青春の中心と言わんばかりの連中もたくさんいた。
ただ俺はその横で顧問にバカみたいに走らされる日々を過ごす坊主頭の集団の一人だった。いやそういうと語弊があるかもしれない。
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