第1章 第1話

1/1
2人が本棚に入れています
本棚に追加
/113ページ

第1章 第1話

 ウソみたいに信じられない話なんだけど、空から女の子が降ってきた。 有名なアニメのワンシーンみたいに、仰向けに寝ている女の子が、ふわっと。 天から降りてくるみたいな感じでさ。 4月始めのまだ肌寒い校内に、俺はそんなものを見てしまった。  山の上にある高校は、その山頂を削り、池を埋め立てて整地されたらしい。 校内に埋めきれなかった小さな池が残っているのが特徴だ。 ビオトープとかいうやつで、自然をそのまま残したとかいう名目の小さな池には、カエルだとかメダカなんかが住んでいる。 その周辺には芝が植えられていて、原生林の残る山腹と比べると随分と見栄えが異なるが、一種の憩いの場になっていることは間違いない。 あんまり人気はないけど……。 写真部の俺は、どうしても春先の夜空が取りたくて、その池の脇に三脚を立てレンズの調整をしていた。 憧れの天体写真撮影のために、ネットで色々と調べた時間と方法をスマホで確認しながら、レンズを空に向けた、その直後のことだった。  何事が起こったのかと思った。 カメラのレンズにゴミでも付いているのかとのぞき込んでみたが、何もない。 そんなゴミもないか。 ただアニメと違ったのは、その女の子は真っ白な袴を着た肩までの黒髪の女の子で、体が半透明に透けている。 「あ、あの……。あれさぁ……」  誰かに声を掛けようと思っても、周囲には誰もいなかった。 まだまだクソ寒い春先の、こんな屋外での長時間撮影に付き合ってくれようなんて奴は、写真部にもいない。 辺りはすっかり日も落ちて、完全下校時間も近づいている。 残っている生徒たちもほんのわずかだった。 その女の子はゆっくりと、こっちに向かって落ちてくる。 どうしよう。アレはなに?  宇宙人? 地球侵略? それとも……。 考えている場合じゃない。 俺は迷わず、校舎の陰に身を隠した。 こういうのは、遠くから観察するに限る。 だろ?
/113ページ

最初のコメントを投稿しよう!