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私、そんなこと「いっつも」言ってたんだね……。
しかも、嬉しそうに。
カップのこと、言い出せなかったって、それ、こっちも同じだから。
私、肝心なこと、ひとつも伝えられていなくて、本当にごめん。
でもね、赤垣。
今日こそは、ちゃんと伝えるから!
『今日はいろいろありがとう。
あと、小1の遠足のときのお礼、ずっと言いそびれていてゴメン。
あのときは本当にありがとう。
14日、登校する? もしバイトに行く日なら、終わったら会って欲しい。
チョコ、渡したいから(あ、本命のやつだよ!)』
私はあのときも忘れ物をしてしまい、家に取りに戻っていた。学校に着いたのは出発ギリギリの時間で、トイレに行きそびれてしまった私は、途中で尿意を我慢できなくなっていた。
バスを止めるのが悪いような気がしたのもあるが、それよりも恥ずかしいという気持ちが大きくて、トイレに行きたいと言い出せなかった私は粗相をしてしまった……。
私の異変にいち早く気づいたのは、通路側の席に座っていた赤垣だった。
終わった……。
絶望的な気持ちが襲ってきた瞬間だった。赤垣は水筒の蓋を素早くあけて、私のスカートのうえに麦茶をぶちまけた。
「あ、ごめん、桐野さん! 俺、手が滑って……」
K大の門に近づいてくる影は青かったけれど、あのときと変わらず、優しくて賢い赤垣に間違いなかった。〈了〉
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