5.今日こそは、ちゃんと伝えるから!

2/2
前へ
/16ページ
次へ
 私、そんなこと「いっつも」言ってたんだね……。  しかも、嬉しそうに。  カップのこと、言い出せなかったって、それ、こっちも同じだから。  私、肝心なこと、ひとつも伝えられていなくて、本当にごめん。  でもね、赤垣。  今日こそは、ちゃんと伝えるから! 『今日はいろいろありがとう。  あと、小1の遠足のときのお礼、ずっと言いそびれていてゴメン。  あのときは本当にありがとう。  14日、登校する? もしバイトに行く日なら、終わったら会って欲しい。  チョコ、渡したいから(あ、本命のやつだよ!)』  私はあのときも忘れ物をしてしまい、家に取りに戻っていた。学校に着いたのは出発ギリギリの時間で、トイレに行きそびれてしまった私は、途中で尿意を我慢できなくなっていた。  バスを止めるのが悪いような気がしたのもあるが、それよりも恥ずかしいという気持ちが大きくて、トイレに行きたいと言い出せなかった私は粗相をしてしまった……。  私の異変にいち早く気づいたのは、通路側の席に座っていた赤垣だった。  終わった……。  絶望的な気持ちが襲ってきた瞬間だった。赤垣は水筒の蓋を素早くあけて、私のスカートのうえに麦茶をぶちまけた。 「あ、ごめん、桐野さん! 俺、手が滑って……」  K大の門に近づいてくる影は青かったけれど、あのときと変わらず、優しくて賢い赤垣に間違いなかった。〈了〉
/16ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加