2.俺様は全力で応援しているんだぜ!

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2.俺様は全力で応援しているんだぜ!

 時間がもったいないという気持ちにおされて、しらばっくれようかとも思ったけど、友達は私と一緒にまわるのを前提で話を進めていたから、空気を読んで参加することにした文化祭。10月30日の今日、2日目の開催を迎えていた。  午後2時になり、体育館のステージに登場したのは軽音楽部だった。制服を着崩した部員たちの群れの中心にいるのは、やっぱりあの人で……。  ステージの中央に立っているのは想像した通りバカガキで、制服のシャツにはボタンがかかっておらず、真っ赤なタンクトップが丸見えだ。  スタンドマイクの前に立ちはだかり、得意気に両手を振り上げるところなんかは、もうプロ顔負けといった感じ。  何でしょう、この堂々とした態度は。あ、羨ましいって意味なんですけどね。  カウンセラーを目指しているクセに、人前に立つのがあまり得意ではない私からすると、彼はある意味勇者だった。  激しいメロディが流れ出すと、ノリノリで歌い始めるバカガキくん……。  確かに歌は上手い。それは昔から変わっていない。もちろん、本人には伝えたことはないが、声も悪くない。声量もあるし、相変わらずリズム感も抜群だ。  体全体が音に馴染んでいる。そんなバカガキの姿を見ていると、小学校6年生の5月に起こった、あの日の出来事を思い出す――  掃除の時間だった。先生がいないことをいいことに、教室の後ろにあるロッカーのうえに乗って、抱えた箒をスタンドマイク代わりに、ご機嫌に歌を披露していたバカガキくん。  まさか、ロッカーに入っていた私の手提げ袋の持ち手に、箒の先端が引っかかるなんて想像していなかったのだろう。  いちばん上の段から落下した手提げ袋。その中に入っていた、歯磨き用のカップにヒビが入ってしまったことなんて、想像できなくて当然だ。かくいう私だって、家に帰るまでそのことに気づかなかったくらいなのだから……。  使い始めてからまだ1ヶ月もたっておらず、お気に入りのキャラが入ったカップだっただけに、すごくがっかりしたけれど、あのときの私は、バカガキに苦情を言ったりはしなかった。  くじで当たった景品だったから、苦情を言ったところで、同じものが戻ってくるはずもなく、言っても無駄だと思って黙っていた――  ずっとそう思ってきたけど、でも、本当にそれだけが理由だったんだろうか……。今になるとちょっと自信がなかった。
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