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月の墓守
月。それは過去か未来か。月にはつややかな墓がある。誰にも知られずにそれを守るものがある。
その男、どれほどの年月を月で過ごしたか知るものはいない。
今日も月にある小屋で紅茶を淹れる。話し相手など誰もいない。
トーストも焼く。それも二人分。墓守はまず墓へと向かい紅茶とトーストを備える。目を閉じて両手を併せているうちに紅茶とトーストは消える。
それを確認して、墓守は畑を耕しに行く。
なんのためか? 遥かなる孤独の中、墓守は生きた。それを生きていると言えるかどうか。訊ねる者すらいない。
墓守が空を仰ぐ。そこには青く輝く星。墓守の故郷。それよりこちらに向かってくるものがある。
「ちっ」
つい、ついた舌打ち。シャトルは月面に着陸し、武装をした人々が墓守を囲む。
「大人しく縄につけ! 月の姫を渡してもらおう」
「やだね」
墓守の答えを聞いて、銃が一斉に放たれる。
墓守はサッと左手を上げる。
弾は墓守まで届かずにパタパタと落ちていく。
「何度来ても同じだ。姫は墓の中だ。いい加減諦めろ」
再び銃が放たれる。その中、一人が飛び出してくる。
墓守は飛び退き、その一人のブレードを避けながらまた左手を前に弾を落とす。
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