真打・死神

6/8
前へ
/9ページ
次へ
『お前さん……。ただの朴念仁かと思えば、なかなか勘の鋭い男だね』 『出たか……。真打』 『嬉しいね。誉めてくれるのかい? まぁ、それはおいといて。お前さん、いつから“アタシ”に気づいてたんだい?』 『たまたまだよ。……テレビをつけたらじいさんの寄席がやってた。死神をやってた時のな』 『……そうかい』 『頼む。もう、死神は止めておけ。それをやらなくてもあんたは名人として立派にやっていけるだろ』 『そりゃ、無理な話だね』 そう、答えた時のノボルの顔……。怒りとも哀しみともつかないような悲しそうな顔だったね。 『無理な話だよ。毎晩毎晩……聞こえてくるんだよ』 怨嗟の声が。悲憤の叫びが。 理不尽においやられ、虐められ。恨みと哀しみを抱いたまま死んだ魂が。 たくさんの報われない思いが…… どうか、はらしてくださいと。私達の恨みを昇華させて欲しいと。 世の中の。この世の理で、裁けぬ悪を。 そんな悪鬼の命の灯火を。不幸な誰かと代えたり、吹き消したり。 『“死神”のアタシがやらなくて、誰がやるんだい』 ノボルは黙ったまんま、あたしを見てましたね。
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!

36人が本棚に入れています
本棚に追加