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『お前さん……。ただの朴念仁かと思えば、なかなか勘の鋭い男だね』
『出たか……。真打』
『嬉しいね。誉めてくれるのかい? まぁ、それはおいといて。お前さん、いつから“アタシ”に気づいてたんだい?』
『たまたまだよ。……テレビをつけたらじいさんの寄席がやってた。死神をやってた時のな』
『……そうかい』
『頼む。もう、死神は止めておけ。それをやらなくてもあんたは名人として立派にやっていけるだろ』
『そりゃ、無理な話だね』
そう、答えた時のノボルの顔……。怒りとも哀しみともつかないような悲しそうな顔だったね。
『無理な話だよ。毎晩毎晩……聞こえてくるんだよ』
怨嗟の声が。悲憤の叫びが。
理不尽においやられ、虐められ。恨みと哀しみを抱いたまま死んだ魂が。
たくさんの報われない思いが……
どうか、はらしてくださいと。私達の恨みを昇華させて欲しいと。
世の中の。この世の理で、裁けぬ悪を。
そんな悪鬼の命の灯火を。不幸な誰かと代えたり、吹き消したり。
『“死神”のアタシがやらなくて、誰がやるんだい』
ノボルは黙ったまんま、あたしを見てましたね。
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