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『それでも……心配してくれてありがとうな。あたしはバカだからね。聞こえてくる声を無視できないのさ』
“世の中の。人間の。どうしようもない業を肯定し、愛してしまうところに落語の凄味がある”
『そんなことを言った名人も居たけどね。名人だ、真打だとおだてられて、この歳になってもね。そこまでの境地にはなれなかったよ。あたしは未熟な人間のまま……この死神と手に手を取って地獄に行くよ』
『地獄じゃないよ。あんたが行くところは……地獄よりも、もっと恐ろしいところだ』
『大丈夫。だって……“アタシ”が一緒だからね。それに……』
“あんたの行き先も多分、そこなんだろ?”
『……なんでもお見通しなんだな』
『それが……摂理を曲げた者の──あたしら(アタシら)の行く末なんだろ?』
ノボルは黙ったまんま、笑って『帰るわ』って言いまして。ああ、この男ともこれっきりかななんて、思って。
最後になるなら、新台入れ替えの情報だけでも置いてけなんて思ってたら
『あんたは……間違いなく、当代きっての名人だよ』
そう言って帰りました。
──この野郎。これが今生の別れになるかもしれないんだぞ。
新台入れ替えの情報を置いてけや。
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