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序
暗い、闇というに相応しい景色だった。望月をほんの少し過ぎたはずの月の光も鬱蒼と生い茂る木々の梢に阻まれて遠く届かない。
彼は懐中電灯の僅かな明かりを頼りに湿った土を踏み締めて、慎重に足を進めた。
「大丈夫ですか?滑りますから気を付けてくださいね」
先に立って案内する男が時おりこちらを振り向いて、薄く笑いかける。能面のように色白で端正な面にうっそりと浮かぶそれは安堵というより、言い知れぬ不安を彼の中に浮かびあがらせる。
ー帰りたいけど......ー
なぜか踵を返すことが出来ず、見えない糸に手繰り寄せられるように覚束ない足取りで男の白い背を追う。時おり森の奥から鳥や獣の気配、唸る声が不気味に響いてくる。
彼は懐に大切にしまっている物を片手でぎゅっ......と握りしめた。
ーなんでこうなったんだ?ー
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