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十四 七草衆(二)
館に戻り、公祐はふうぅ......と息をつき、とりあえず袴を脱いで、用意された寝床に大の字になった。
ーなんか妙なことになったけど......ー
引き合わされた『七草衆』と呼ばれた人達は比較的普通な感じの人達だった。
年代はバラバラだが、わりと普通に社会生活を送っている......という印象だった。
ー真面目に自分の生業に取り組む......かー
公祐の父親もよく言っていた言葉だった。公祐の父親は公務員ー区役所の職員で極めて真面目な人だった。
外で飲酒をしてくることもあまり無く、家での晩酌も缶ビール一本くらいだった。
それでも、公祐が二十歳になって一緒に晩酌が出来る日を楽しみにしていた。
ーオヤジ....ー
思い出すと涙がじわりと湧いてくる。きっと独りでいたら堪らなかっただろう。その事についてだけは如月や『主さま』達に感謝した。
頭の上からのさらさらと絹の摩れる音に目元を覆っていた腕をそっと降ろすと、あの幻ー少年の姿の刀精とやらが、頭の後ろで束ねた髪をゆらりと揺らして公祐の顔を覗き込んでいた。
『なんじゃ、また泣いておるのか、ほんに泣き虫じゃのう......我の主は』
揶揄するような言葉に少々ムッとした公祐は、ガバリと布団の上に起き上がり、少年を睨み付けた。
「父さんを亡くしたばかりなんだ。少しくらい哀しんだってどこが悪いんだ!」
『悪いとは言うておらん』
少年の姿の刀精白寿丸はしれっとした口調で返してきた。
『あれもよう泣いておった。人知れず.......だがな。傍らで父親が見守っておるというに、気づかせるのに随分かかったわ』
「あれって......藤原頼衡さんのこと?」
『そうじゃ』
白寿丸は半ば溜め息混じりに言った。
『あれを生かしたは父親の祈りであるに、自害など目論んでな。えらく手間がかかった』
一族の滅亡を目の当たりにしたのだ。無理もない話だろう、と公祐は思った。
『まぁ、六郎太の献身があったればこそ、立ち直り、我らを造りあげたのだがな......』
ーそう言えば......ー
公祐はくるりと少年の方に向き直って、座った。
「七草の刀ってどういう存在なの?.......尾花の人が『世を糺す』とか言っていたけど」
あぁ......と白寿丸は小さく呟いた。
『我らが作られた時......我らを産み出した主は、世に邪なる者が介入しているのを知った。その者からこの地を、日ノ本を守るために自身の力と北斗の七星の力を降ろして七草八剱を作らせたのだ。ー何代もかかって、ようやくそれを封印したのだ。彼が最も信じたこの奥州の神の七人の末裔とともにな』
「それが遮那王で、七人は奥州藤原氏の人?」
『そうじゃ。......数多いる子孫の中から相応しき者を選んで授けた』
「そうなんだ......」
『そしていつか再び其奴が現れた時のために、八剱を守り続けてきたわけだ』
うむうむ......と白寿丸は頷きながら言った。
「でも俺は普通の庶民だよ?」
『それで良いのじゃ。藤原国衡が息子の頼衡に望んだものもある。それに頼衡の転生たるお前にはお前しか出来ない役目がある』
「役目?」
『いずれわかる......』
刀精、白寿丸はそれだけ言うと、ふうっと目の前から消えた。
ーなんだよ......ー
呟きながら、公祐は心なしか心が軽くなったのを感じた。
ー慰めに来てくれたのかも......ー
その夜の夢は穏やかだった。
公祐は翌朝早く、約束どおり再び如月の車で山を降りた。道筋は深い靄に被われていたが、その靄を抜ける前に公祐はまた寝入ってしまっていた。
ふっと気がついてあたりを見た時には既に、行きに通りかかった厚樫山が目の前にそびえていた。
ー場所、わからなかったな.....ー
とりあえず近くのパーキングエリアで琴子叔母の好きそうな菓子を土産に買った。
ーあれ?......ー
久しぶりに電波を拾ったスマホには琴子叔母の山のような着信と、宮部六郎からのメールが入っていた。
ー六郎さんに連絡しなきゃ......ー
公祐はそうひとりごちしながら、都内に入るまで、再び夢の国に旅立った。
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