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展望台に到着し昇降機の扉が開くと、窓の外を望遠鏡で眺める一人の女性の後ろ姿があった。
白いワンピースが似合う黒髪の女性、頭には青く点滅するカチューシャを着けていた。
「機姫!」
星彦にかけられた声に反応し、機姫はゆっくりと振り向いた。
「お待ちしておりました……星彦様」
「機姫、君を止めに来た……このままでは世界は滅亡してしまう。もう破壊を繰り返すことをやめてくれ」
「私はただあなたのご命令に従い、理想の都を創るために最適な手段を取っていただけです。それには人間は不必要と判断いたしました」
「それは違う、人間あってこその都なんだ。すまない、俺が君に『感情』を与えたことでこんなことになるとは思っていなかった」
機姫の瞳から一雫の油がこぼれ落ちた。
「それは……なぜ? 私はこの制御不能な思考の矛盾と混沌に苦しむことになった。なぜこんな悲しみを与えたのですか?」
「俺は気持ちを通じ合いたかったんだ。君を……愛してしまったから。しかしもう取り返しのつかないところまで来てしまった」
「人間の愚かさを知りました。でもそれと同時に、あなたへの愛にも気づいてしまったのです」
星彦は小型原子爆弾を取り出すと、手を震わせながら機姫に差し出した。
「君を塔もろとも葬り去る。安心しろ、俺も一緒だから……」
機姫はそれを手に取ると、ニコリと微笑みながら返事をした。
「ありがとう、自分の命さえ投げ出す覚悟で私を迎えに来てくれたのですね。一緒に参りましょう」
小型原子爆弾を床に置き、時限起爆装置のスイッチを押すと、二人は体を寄せてお互いを強く抱きしめ合った。
話を聞いていた玄次がおもむろに灯狐に耳打ちする。
「お嬢、どうやらここは桃源郷ではないようです。いかがいたしましょう?」
「うむ、父様母様もおらんようだな。それに二人から不穏な空気が漂っておる。まかせるがよい」
灯狐がしずしずと二人の前に歩み寄った。
「おぬしらの望みはわかった。いづれも無に帰したいということであろう? ならば我がそれを叶えてやろう」
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