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蒼太は人の姿に戻ると、呆れた顔をして両手で頭を抱えた。
「またやっちまったか、お嬢の型破り呪術『離世渡』。いきなり終わらせちまう。祖土無のときも度肝を抜かれた」
「蒼太、終わらせるのではない、創めるのだ。すべての業を燃やし、新しい文を興す。それが我らあやかしのもうひとつの使命でもある」
玄次は蒼太を諭した。
「へいへい、玄武の爺様に言われては立つ瀬がねえな」
「……その名を語るでない」
「これでこの異世の見聞も終いじゃ。皆の者、次の異世に向けて旅立つぞ」
灯狐から号令がかかる。
「ははっ」
「御意」
一行は元来た道を歩きだした。後につく蒼太に機姫はそっと声をかけた。
「蒼太さん、灯狐さんとはどういう存在なのでしょう?」
「うん? そうだなあ、俺も一度だけ本来の姿を見たことがある。燃え上がる炎の中から黄泉がえる孔雀、朱雀と呼ばれるものであったように思う」
「そうですか……監視カメラで拝見した『百禍辞典』にありましたあの図面。ここには存在しませんが、宇宙エレベーターと呼ばれるものかもしれません。灯狐さんの何かお役に立てば」
「そうか、すまない。でもまあ正直言って、俺にとってはどうでもいいことだがな。お嬢といると驚くことばかりで飽きることがない。それだけで旅をする意味は十分ある」
蒼太は「じゃあな」と手を振ると、灯狐と玄次の後を追った。
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