歌舞伎小説 あやかし異世鑑定団

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 道中で玄次は紅色(べにいろ)の書物を取り出し、筆を構えた。 「お嬢、この異世には、なんという名をつけましょうか?」 「そうじゃな……塔のある(さと)塔郷(とうきょう)とでも呼ぶことにするか」 「して、今回の異世のご評価は如何(いか)に?」 「うむ、『人とからくりが共に営み、悩み、愛しあう嬉快(きかい)(みやこ)』と記しておいてくれ。望んでいたものとは違ったが、これからの期待も含めて三つ巴を与えよう」 「はは、『魅趣覧第百八界 異世塔郷』三つ巴をいただきました」  玄次は魅趣覧の新しい項に名前と感想を記すと、三つ巴の印をぽんと結んだ。 「いつか桃源郷なるものを見つけたいものだな……」 「次こそ探しておられる異世かもしれませぬ。芭部瑠(ばべる)という塔のあるところでございます」 「さて我を待つものは桃源郷か、はたまた奇異なる迷世か……皆の者、参るぞ」 「お嬢、次界(じかい)はお手柔らかにお願いしますね……」  トンネルが見えてきた。一行が再び靄のかかる入口に足を踏み入れると、しばらくしてどこからともなく呪文を唱える声がこだましてきた。  ――地・水・火・風・空、降・雷・光・命……開門!――  桃源郷、それはあなたの心に宿る理想の都  桃源郷を見つけるその日まで  我らが旅のお供をいたしましょう  語り 白虎(バイフー)
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