歌舞伎小説 あやかし異世鑑定団

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 バリバリと五芒星が火花を散らすと、空間はぐにゃりと渦を巻き、光の渦巻きがパァッと弾けた。しばらくすると、トンネルの先に(もや)がかかる出口が見えてきた。 「さて我を待つものは桃源郷か、はたまた奇異なる迷世(まよいよ)か……皆の者、参るぞ」 「ははっ」 「御意(ぎょい)」  出口を抜けると、ゴロゴロとした瓦礫の感触に足元が揺らいだ。視界が(ひら)けると、そこには倒壊した建造物と果てしなく続く灰色の雲が空に漂っていた。 「……なんじゃ、ここは。なんとも異様な景観よの」  ドォンンと遠くからかすかに聴こえる爆音に、少女の大きな獣耳(けものみみ)がぴくりと反応した。音のほうに顔を向けると白い煙が立ち昇っており、上空には四翼(よんよく)の羽根を付けた円形の物体が浮遊していた。 「玄次(げんじ)さん、あの空に浮かぶ(むし)何物(なにもの)じゃ?」 「ははっ、少しお待ちを」  老人は鞄を降ろすと、中から一冊の分厚い書物を取り出し、パラパラと項をめくりはじめた。 「ふむふむ、見つけました。百禍事典(ひゃっかじてん)によりますと、泥雲(どろうん)と呼ばれる式神(しきがみ)の一種のようでございます」 「ほう、あれを操っている者がおるということじゃな」  浮遊する泥雲から地表に目を移すと、ひとりの逃げ惑う青年がいた。泥雲からその青年めがけて火を噴く矢が放たれると、彼のすぐ横で爆発し噴煙を上げた。   「あの珍妙な矢は何という?」  玄次は再び百禍事典を開くと、該当する項目を指差した。 「微砕流(みさいる)という人を殺める蠱毒(こどく)の一種のようです」 「ふむ、この荒涼とした景色を造形するために、あのような道具を使っておるのか?」 「はて私にはわかりませぬ。おや、あやつが近づいてまいります」 「君達、こんなところで何をしている! 早く逃げろ」  逃げ回っていた青年が一行(いっこう)の元に向かってくる。泥雲から微砕流が放たれ、シュルシュルと音を立てながら、彼の後方に迫っていた。 「……蒼太(そうた)」 「御意」
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