歌舞伎小説 あやかし異世鑑定団

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 若者は背負った大鉈の()を握り、低く構えると太刀(たち)を一振りした。 「かまい太刀!」  三日月型(みかづきがた)のつむじ風が放たれると微砕流は西瓜(すいか)のように真っ二つに割れ、一行の左右に着弾して爆風を上げた。少女の長い髪が風になびいて顔を隠した。  つむじ風はそのまま泥雲に直撃し空中で爆発すると、バラバラと黒い鉄くずを地上に撒き散らした。  呆気(あっけ)にとられ立ち尽くす青年に、少女は近づき語りかけた。 「おぬしに聞きたいことがある。この絵に描かれた街はどこにある?」  青年が一枚の写真を受け取ると、そこには雲まで伸びる塔と地上を埋め尽くす建物が写っていた。 「これは……昔の写真だな。残念だがこの景色は今はない。塔を除いて、すべて破壊された」 「ここは桃源郷ではないのか。なんという異世じゃ?」 「あだよ? それより君達は……」  青年は彼らの異形な姿に、はっと驚きの表情を見せた。  獣耳をつけた少女と(くちばし)のある緑色の老人、角の生えた青い巨漢の若者。 「君達……人間じゃない?」 「我らは、あやかしである」 「あやかし、よ、妖怪?」 「妖怪ではない、あやかし、(あや)()こしじゃ。異世を見聞(けんぶん)して魅趣覧(みしゅらん)にまとめておる」 「みしゅらん……。ガイドブック?」
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