歌舞伎小説 あやかし異世鑑定団

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 青年は思考が混乱し、その場にへたりと座りこんでしまった。 「おぬしはここで何をしておる?」 「俺はその塔を破壊するために……小型原子爆弾を搬送中だ」 「原子爆弾……?」  少女がちらりと玄次に目をやる。 「後未来忘無(あとみくぼうむ)と呼ばれるもので、強い光を放ち街を滅ぼす呪術でございます」 「せっかく創った塔を破壊するとは変わった趣向の芸じゃな」 「そうではない! ……人類の存亡がかかっている」 「何か事情があるようだの、我に聞かせてみよ。我が名は灯狐(とうこ)と申す」 「俺は星彦(ほしひこ)。 ……人々はユートピアの実現を夢見ていた。作業効率を上げるため、理想の都市を自動設計する仕事をアンドロイドに担わせた。しかし感情を持った彼らは暴走し、人類を脅かす存在となった。その司令塔がこの写真にある『天空の塔』だ」 「暗泥隷奴(あんでいれいど)……人の形を模した形代(かたしろ)の一種のようです」 「人の形を模すということは魂を宿すということ。手荒に扱っては(ばち)が当たるというもの」 「あの塔に住む『機姫(ハタヒメ)』がその中枢。彼女を停止させなければ、人類に未来はない」 「ふむ……そやつが何か知っているかもしれぬ。我らもその塔に向かうとするか」 「君達を危険にさらすわけにはいかない。これは俺の責任だ、自分で始末をする」 「おぬしの責任?」 「彼女に感情を与えたのは開発者であるこの俺だ。創造的作業を行うには、どうしても感情を組み込む必要があった」 「おぬしが形代に与えた情念が呪詛(じゅそ)であったということじゃな」 「スクラップアンドビルド。理想的創造には破壊の概念、ネガティブ思考も必要だった……しかしそれが間違いだった」 「その機姫を止めたいのであろう? 我らにまかせるがよい。それにあの塔が我らの探している桃源郷かもしれぬからな」
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