歌舞伎小説 あやかし異世鑑定団

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「次は悠途廟(ゆうとびょう)隧道(たいどう)(まえ)」  マイクを片手に持ったひとつ目の運転手から停留所の案内があった。  バスの降車ボタンを押すと、ヴーという鈍い音とともにランプが鮮紅色(せんこうしょく)に染まった。  バスはわしゃわしゃと動かしていた百足(むかで)を止めると、折戸(おりと)をギィと開けた。  ひたひたとステップを踏む足音が聞こえると、(あか)装束(しょうぞく)を身に(まと)った一人の少女が、ふわりと停留所看板の前に降り立った。  びゅうと木枯らしが吹くと、少女の短い(すそ)が風になびき、隙間から白い(もも)を覗かせた。  大きな(かばん)を担いだ老人と、大鉈(おおなた)を携えた若者がその後について、のそりのそりとバスを降りた。  バスは全員を降ろすと、目の前にある(すす)けたレンガ造りのトンネルの中に体を揺らしながら消えていった。  老人は禿げ頭を掻きむしると、古地図をがさがさと広げ、ぽうっと赤く灯る場所を指でなぞった。 「やっと着きましたね、お嬢。このトンネルが、次に鑑定する異世(あだよ)迎戸(げいと)で間違いないようです」  少女は装束の衿元(えりもと)から一枚の写真を取り出すと、じっと見つめながら呟いた。 「今度こそ、『桃源郷』なるものを見つけることができるかもしれぬ……」    三人はうす暗いトンネルの中に足を踏み入れた。  ぴちゃり、ぴちゃりと水のしたたる音がこだまする。苔の生えたトンネル内に漂うかび臭い空気が、その歴史の古さを物語っていた。 「では開廟の儀を始めるとするか……あれを」 「ははっ」  老人が一枝(いっし)(さかき)を少女に手渡すと、少女はその枝をシャッシャッと振り五芒星を(ちゅう)に描いた。 「地・水・火・風・空(ち・すい・か・ふう・くう)降・雷・光・命(こう・らい・こう・めい)……開門(かいもん)!」
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