0人が本棚に入れています
本棚に追加
5曲目『西行法師の如く』
願わくは 花の下にて春死なん
そういったのは 誰かしら?
私もあなたの 言葉にならい
桜の花咲く 木の下の
ベンチに長々 横たわり
桜の花を 真下から
ひとり静かに 眺めると
まだまだ白い 暮れゆく月が
花の枝から 見え隠れ
赤から藍に 日は傾いて
花々たちも 眠りだす
……ああ、たしかに
このような 美しい景色の中で
息絶えることが できたなら
それはこの疲れた 人生の全てを
あっという間に 洗い流してくれる
夕方六時の 鐘がなり
思わず私は ポケットに
いれたスマホの カメラをつけて
腕を伸ばして 構えます
流れる雲が 遠ざかり
枝揺らす風が 休む間に
花にピントは あうけれど
月にはピントが あいません
これは カメラの せいかしら
それとも私の 胸が 目が、心のどこかが
涙でにじんで いるせいかしら
……ああ、今日はこれまで。
少し冷たいけれど 優しい夕方の風が
横たわる私に 声なき声で語り掛けます
私は立ち上がって 帰路につきます
にじんだ月と 優しい花々の写真のいくつかを
ポケットの中に そっと放り込んで
願わくは 花の下にて春死なん
そういったのは 誰かしら?
最初のコメントを投稿しよう!