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 佐々木さんがスマートフォンの画面を見せた。SNSの投稿。次の土曜日にライブをするとのこと。げんなりした。バンドのボーカルが突然行方不明になったとのことでピンチヒッターを頼まれ渋々応じたのが去年10月のこと。味を占めたバンドメンバー達はそれからも何度か俺を駆り出すようになった。もちろんお礼はきちんと貰っている。そうじゃなければ最初の一回で辞めている。ちなみに未だに本来のボーカルは行方不明のようだ。そろそろ事件性を疑った方が良いと思う。正直、恥ずかしいので人前で歌いたくはないのだが、今の所俺がお小遣いを稼ぐ方法がこれしかない。とりあえず忘れないうちにカレンダーアプリにでも打ち込んでおこうとスマートフォンを出す。Eメールが届いていることに気が付いた。丈晴さんからだった。PDFファイルが添付されていた。開くと数ヶ月前に遭遇した虫の報告書だった。いや、UMAと呼んだ方が良いか。巨大化したトドノネオオワタムシ。人間の体温でも弱ってしまうというその体に火傷を負わせるほどの熱源を持っていた。報告書の内容は星口玩具がトドノネオオワタムシを回収した時点で既にそれは息絶えていたようで、結局の所詳しいことはよくわからなかった、というものだった。体に着けていた白い物質は本来のワタムシが持っている物と性質が異なり、熱を加えても溶けることはなかったという。トドノネオオワタムシは1年のうちに何度か世代交代をするが、今回発見された虫が生息していたであろう地域には今の所巨大化した他のトドノネオオワタムシは確認できなかったとのこと。子孫は残っていないのかもしれない。とりあえずは安心。
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