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「髪の毛」  佐々木さんの一言で我に返る。顔を上げると彼女はスプーンで俺の目より少し上を差し示した。 「だいぶ生えてきましたね」  俺は頭頂部から被さるように生えた髪を撫でる。まだ側頭部辺りは生え揃った感じがしないが、それでも生えた髪は数cmほどの長さになってきた。俺の髪はしなやかなストレートヘア。伸ばすと艶が出る。こういう髪質に憧れる人がいるのはわかっているので口には出さないが、強い整髪料を使ってもすぐに元に戻ろうとするこの髪はあまり気に入っていない。一度ツルツルになったし髪質が変わったりしないかななどと期待していたがそんなことはなかった。髪がない頃は恋しかったがいざ生えてくると憎らしい。ちょっと切りたいな。せめてツヤツヤがわからないぐらいの長さにしたい。理由は自分でもよくわからないが、ツヤツヤがちょっと恥ずかしい。 「松下さんって意外と髪綺麗なんですね」  俺の髪質などどうでもいいのだ。「そうですか」と適当にはぐらかす。 「お泊りするんですよね。社長に乾かしてもらえば」
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