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その日、俺と原田は教室で昼飯を食っていた。 いつも購買に5個しか入荷されない「でかカツハンバーグサンド」──通称「デカハ」を、奇跡的に入手することができたからだ。 「これ考えた人ってさー、どうしてサンドイッチにとんかつとハンバーグを挟もうと思ったんだろうね」 「そんなの、どっちも食いたかったからに決まってんだろ」 「そうだけどさー、肉と肉だよ? 野球でいうところの4番と4番だよ?」 「じゃあ、とんかつとイカの天ぷらならいいのかよ」 「いや、よくないけど──って、なんでそこでイカの天ぷら?」 「うるせーな、昨日の晩飯がイカ天だったんだよ」 くだらねーことをダラダラ話しながら、俺はデカハにかじりつく。 そういえば、酒匂にはじめてハンバーガーを食わせたのは何を隠そうこの俺だ。 小学生のころ、あいつが「ハンバーガーっておいしいの?」ってうらやましそうに聞いてきたから、当時月500円だった小遣いをにぎりしめて、一番安いやつをふたりでわけたんだった。 「みっくん、俺これ好き」──そう笑う酒匂に、俺は得意げに胸を張ってみせたりして。思えば、あいつは当時の俺にとって唯一ふつうに話せる女子だったんだよな。 「なあ、名城。あれ……」 ふいに、原田が俺の腕を引いてきた。 「なんだよ」 「見て、中庭。あそこにいるの、あやめちゃんじゃない?」 原田にうながされて、窓の下に目を向ける。 たしかに、中庭の隅のほうに酒匂がいた。どこぞの見知らぬ野郎と一緒に。 「あれさぁ、1年の小津クンだよね」 「小津?」 「知らない? 演劇部の、なんかすっごい人気ある子」 知らねー、と言いかけたところで、少し前の酒匂の愚痴を思い出した。 たしか小津って野郎が、あれこれちょっかいだしてくるって言ってなかったか? 俺は、改めて中庭を見た。 たしかに、あまりいい雰囲気には思えなかった。 小津はオラつくような態度だし、酒匂は明らかに腰が引けていた。しかも、小津を否定するようにずっと首を横に振っていた。 気づいたら、俺は立ちあがっていた。 「えっ、どうしたの、名城」 原田が驚いたような声をあげたが、そんなのに構ってるヒマはねぇ。 教室を飛び出し、一段飛ばしで階段を駆けおりる。正面玄関に向かうのは遠回りなので、左に折れてすぐ近くの旧体育館へ。 案の定、非常口が開いていたので、そこから上履きのまま外に出た。 間に合え。間に合ってくれ。 そんな念が通じたのか、中庭にはまだ小津と酒匂の姿があった。 とはいえ、無事という感じじゃない。小津は、しっかりきっちり酒匂を壁際まで追い詰めていた。一昔前に流行った、いわゆる「壁ドン」とかいうやつ。女子はキャーキャー騒いでいたが、あれは本来クソみたいな連中が、弱い生徒を威嚇するときにとる手段だ。 「てめぇ、何してやがる!」 走ってきた勢いのまま、俺は小津の背中に跳び蹴りをかました。 「いい度胸じゃねぇか。俺の幼なじみにカツアゲか!?」
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