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小津は、派手な顔をこれでもかと歪めて振り向いた。
まあ、冷静に考えてみれば、いきなり背後から蹴飛ばされたんだ。そりゃ、驚きもするだろう。
ただ、そのときの俺は完全に頭に血がのぼっていたので、ヤツのそうした表情が、クソみたいな連中のそれと重なった。いわゆる「なんだ、人の獲物とる気かこの野郎」的な、ケンカ上等みたいなヤツ。
なので、俺も遠慮なく小津の胸ぐらを捕まえた。
「ふざけんなよ、この野郎。金が必要ならてめぇで用意しろ」
「……は?」
「次、酒匂に手ぇ出してみろ。今度こそ、ボコボコにしてやっからな」
もちろん脅しじゃねぇ、本気だ。
相手はカツアゲするようなヤツだ。遠慮なんていらねぇだろ。
なのに、目の前のクソは皮肉げに唇を歪ませた。
「なに言ってるんですか。あんたこそ引っ込んでろよ」
「なんだと?」
「僕たちは大事な話をしているんです。部外者の出る幕じゃありません」
部外者。その一言が、俺の理性をブチブチと引きちぎった。
冗談じゃねぇ、こいつは大事な幼なじみだ。
つーか、なんだよ「大事な話」って。このカツアゲ野郎が!
なのに──
「待って!」
俺たちの間に、酒匂が割り込んできた。
「みっくん落ちついて! 俺、カツアゲなんてされてない!」
「は?」
「みっくんの勘違い! カツアゲとか、そういうんじゃないから!」
俺は、まじまじと酒匂を見た。
だって、お前──さっきまでこいつに脅されてただろ。壁際まで追い詰められて、どう見てもヤバい感じだったじゃねーか。
なのに、酒匂はこの派手顔野郎を背中にかばっている。
なんだ、この2対1。
もしかして、アウェイなのは俺か?
ようやく冷静さを取り戻しつつある俺に、小津は薄笑いとともに新たな爆弾を落としてきた。
「告白していたんですよ」
「は? 誰に?」
「酒匂さんに。僕、彼女のことが好きなので交際を申し込んでいたんです」
交際。
酒匂と、交際。
俺は、目の前の幼なじみを見た。
幼なじみは、俺が見たことがないような──それこそ、耳まで真っ赤に染めあげて、何かを堪えるようにうつむいていた。
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