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俺とみっくんは、地元の野球チームで知り合った。
当時、俺は小学校4年生、みっくんは5年生。面倒見のいいみっくんのことを俺はとても慕っていて、野球をやめた今でも交友関係が続いている──
っていうのが、たぶんみっくんの認識。
実際は違う。
俺が、みっくんを知ったのは野球チームに入る3ヶ月も前だ。
当時の俺は、ごく普通の小学生だった。自分のことも「私」と言っていたし、スカートも当たり前のように履いていた。
近所の子たちと違うところがあるとしたら、国立大学の附属小学校に通っていたことだ。そのせいで、一部の子供たちから妙な反感を買っていた。どうも「エラそうにしている」と思われていたらしい。
目をつけられた俺は、次第に彼らに突っかかられるようになった。下校中、いきなり背後から突き飛ばされるなんて可愛いもので、ひどいときは空き地で囲まれてお小遣いを巻き上げられたりもした。
両親には言えなかった。娘がそんなことをされてるって知ったら、きっと悲しむに違いない。だからといって、学校の先生に言うのも無意味な気がした。だって、相手は違う学校の子たちだ。どうやって叱るというんだろう。
そんなこんなで八方塞がりになって、しょっちゅうベソかいていたある日のこと。
俺の前にちっちゃなヒーローが現れた。
あのときのことは、6年経った今でもあざやかに思い出すことができる。
例によって例のごとく、俺が空き地でいじめっこ集団に小遣いをせびられていると、ボス的立場のやつがいきなり「ぐえっ」と前のめりに倒れたのだ。
『てめぇ、うちの近所で何してやがる』
ボスの後ろから現れたのは、野球のユニフォームを着た男の子だった。
体格はだいぶ小柄。パッと見「年下?」って思ったくらい。
なのに、いじめっこ集団は青ざめたように後ずさった。
『やべ、光秋だ』
『やばい』
『マジでやばい』
光秋、という名前らしいその少年は、いじめっこ連中をひとにらみすると、倒れたボスの背中をドンッと踏みつけた。
『おいこら答えろ。今、何してやがった?』
『う、うるせ……』
『はぁっ? 今なんつった!?』
ドスのきいたその声に、今度こそいじめっこたちは散り散りに逃げ出した。あのボスですら、何度も転びながら這うように空き地を出て行った。
あとに残されたのは、俺とちびっこヒーローだけ。
『あ、ありがと……』
なんとか声を振り絞ったのに、ちびっこヒーローは「やべ、監督に怒られる」と、慌てたようにその場を走り去った。
助けた俺のことなんて、もはやどうでもいいみたいだった。
そのことが、俺の心をギュンッとさせた。
寝ても覚めてもちびっこヒーローのことが頭から離れなくなった俺は、やがてあの空き地で待ち伏せするようになった。
だって、もう一度彼に会いたかった。会って「あのときはありがとう」ってちゃんとお礼を伝えたかった。それに、できれば「好き」ってことも。ただ、それはちょっと気が早いかもしれないから、まずは「お友達になってください」くらいがいいのかもしれない──
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