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ところが、どんなに空き地で待っても彼は現れなかった。雨の日も、疲れてクタクタの日もがんばって通ったのに、ちっちゃなヒーローの姿を拝むことはできなかった。
そこで、今度は野球チームを探すことにした。あのとき、助けてくれた彼が野球のユニフォームを着ていたからだ。
地元に野球チームは2つ。そのうちのひとつに、確かに彼はいた。
嬉しい。これでようやく再会を果たせる。
俺は浮かれた。めちゃくちゃ浮かれていた。
さあ、なんて声をかけよう。やっぱり「あのときはありがとう」かな。私のこと覚えてくれているかな。
野球の練習が終わるのを待って、帰り道こっそり後をつけた。ひとりになるのを見計らって、彼に声をかけるつもりだった。
ところがだ。
『うるせぇ、俺の前で女子の話をするんじゃねぇ!』
いきなり、彼がそう叫んだ。
『でも、野々村はマジでみっくんのこと好きって……』
『そんなの知るか。俺は嫌いだ!』
『なんで? 野々村、すっげー可愛いじゃん』
『そうそう、めちゃくちゃ可愛いし人気じゃん』
『そんなの関係ねぇ。つーか名前出すな! 鳥肌たっただろ』
『うわ、ほんとだ。マジでブツブツになってる』
『ほんと、みっくんって女嫌いだよなぁ』
ショックだった。
まさかのちびっこヒーローが、鳥肌がたつほど女子が嫌いだったなんて。
結局その日は声をかけられず、頭が真っ白なまま帰宅した。夕飯に出た大好きなチーズ入りハンバーグも、生まれてはじめて喉を通らなかった。
眠る時間になっても、睡魔が訪れない。
どうしよう。もうあきらめるしかないのかな。
でも、もう一度ちゃんとお礼を言いたい。できることなら仲良くなりたい。あの子たちみたいに、彼のことを「みっくん」って親しげに呼んでみたい。
(私が、女子じゃなかったらよかったのに)
そこまで考えたところで、ハッとした。
そうか、「酒匂あやめ」が女子じゃなければいいんだ!
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