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そんななか、とんでもない出来事が起きた。
いつもより遅く起きて、大慌てでパンを頬張ってる途中、制服のズボンに牛乳をぶちまけてしまったんだ。
「お母さん──お母さん、どうしよう!」
「どうしようって、さっさと着替えればいいじゃない」
「何に!? ジャージに!?」
「スカートに決まってるでしょ」
それはダメ!
それじゃ、みっくんに会えない!
「やっぱりジャージで登校する!」
「なに言ってんの。校則で禁止されてるでしょ」
「だったら休む! スカート履きたくない!」
「バカ言ってないで、さっさと学校に行きなさい!」
いっそサボろうかと思ったけど、今日はLHRがあることを思い出した。
たしか、議題は「学園祭について」。こういう日に休むと、誰もやりたがらない仕事を半ば強制的に押しつけられることになる。実際、一学期に行われた体育祭のときも「男女二人三脚」とか「1キロ走」とか、誰もやりたがらないエントリーはすべて欠席者に押しつけられた。あのときのことを思えば、今日欠席するなんてどう考えても有り得ない。
仕方なく、俺は部屋のクローゼットを開けた。
メンズのシンプルな服が並ぶなか、隅っこに押しやられていたプリーツのスカート。高校入学前、俺は「ズボンだけでいい」って言ったのに、お母さんが「いいから」とむりやり買ったものだ。
履くと、太ももの内側あたりがスースーした。なんだこれ。スカートってこんなに頼りない感じだったっけ。
うちのクラスの女子は圧倒的にスカート派が多いんだけど、ほんと理解できない。こんなの履いて一日過ごすなんて、はっきり言って拷問だ。
「あやめ、早くしなさい! 遅刻するわよ!」
お母さんの怒鳴り声で我に返った俺は、急いで階段を駆け下りた。
「いってきます」と家を出て、すぐに走りだそうとしたものの、布地がひらひらするのが気になって仕方がない。
最悪だ。スカート滅びろ!
心のなかで何度も悪態をつきながら、なんとか電車に乗り込んだ。
ぐったりだ。
朝から汗びっしょりだ。
手すりにもたれながら、ポケットのなかのスマホを取り出した。電源ボタンを押すと、真っ先にみっくんからのメッセージが表示された。
──「寝坊か?」
嬉しい。
いちおう、朝会わなかったこと気にかけてくれてたみたいだ。
──「最悪。制服のズボンに牛乳こぼして、今日スカート」
そこまで打ち込んだところで、はたと指が止まる。
今日はスカートだってこと、みっくんに知られて大丈夫かな。へんに避けられたり敬遠されたりしないかな。
悩んだ末、別のメッセージを書き込んで送信した。
──「最悪。目覚まし鳴らなかった」
──「でもギリギリ間に合いそう」
すぐに既読はついたけど、返信はなかった。
俺は、ぼんやりと窓の外を見た。
見慣れないスカート姿。なんだか「女子のふり」をしているみたい。
(まあ、実際女子なんだけど)
ああ、なんだか妙に気恥ずかしい。
へんに注目を集めなければいいんだけど。
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