94人が本棚に入れています
本棚に追加
そんな俺の心配は、杞憂に終わ──ってほしかったんだけど、現実はそう甘くはなかった。
まず、仲の良い女子たちが「あやめ〜!」と嬉しそうに食いついてきた。
彼女たちは、俺がみっくんに片想いしているのを知っていて、その上で「男子のふりなんてさっさとやめるべき」って日々チクチク言ってくる。
だから、スカート姿の俺を見ていろいろ早とちりしたらしい。
「よくやった、あやめ!」
「ついに決心ついたんだね!」
違う違う、これは今日だけ。
事情を説明すると、彼女たちは「はぁっ」って顔をしかめた。
「いいじゃん、これからはスカートでいこうよ!」
「ついでに『俺』って言うのもやめなって」
「もっと可愛い格好しようよ!」
そんな彼女たちは、今日も制服のスカートを自分好みに調節したり、唇をツヤツヤにしたり、甘い香りを漂わせたりしている。まさに、女子であることを全力で楽しんでいるって感じ。
そうだよな。俺が、みんなと同じくらい「男子っぽくふるまう」ことを楽しんでいるなら、みんなもあれこれ口出ししないんだ。
でも、俺自身ちょっと迷いはじめているから「もうやめなよ」って言われてしまうわけで。
「ねえ、その格好みっくんに見せにいこうよ」
「えっ、やだよ! 絶対やだ!」
「なんで? いいじゃん」
「もしかしたら意識してくれるかも」
「かわいいって思ってくれるかも」
思わないよ。
みんな、みっくんの女嫌いを甘く見過ぎ。
女子の話題が出ただけで鳥肌たてるような人だよ? まあ、小学生のころの話ではあるんだけど。
「とにかく、会いに行くのは無理だから」
むしろ、今日一日会わないように気をつけないと。こんな姿を見られて「そういえばこいつ女だった」って今更距離を置かれたくはない。
そんなこんなで彼女たちに「絶対会わないから」って念押しして、ようやく俺は自席についた。
けど、ここからがまた厄介なんだ。
「ふーん」
さっそく、隣の席から含むような声が聞こえてきた。
最初のコメントを投稿しよう!